里親活動を始めるきっかけを教えてください。

こどもがたくさん欲しかったのですが、なかなか恵まれず、後から結婚した人たちが次々に授かっていきました。夫と一緒に病院で診てもらったところ、授かる可能性はないとはっきり言われてしまって…精神的に落ち込む日々を過ごし一年ほどたったある時、友人が年齢を重ねての結婚のため、授かることは間違いなく無いと。だけど、里子として赤ちゃんを引き取ったと聞きました。そのことが、里親を意識するきっかけになりました。
さらに偶然、テレビで里親のドキュメンタリーを観ました。“私たちはこどもに恵まれなかったけど、親に恵まれないこどももいる”という事実を目の当たりに。お互いの心を埋め合うことができたら、すごくいいことが起きるはずだと確信し、里親になることを決意しました。

どのようにして里親制度の情報を集めましたか?

どうしたらいいのか分からなかったので、まずは当時住んでいた県の県庁を訪ねました。窓口の方から児童相談所を紹介され、さっそく相談しに行ってみると、里親制度について丁寧に説明していただきました。早い段階から里子さんを探し始めてくださったので、里親認定が下りてからは、すぐに依頼の声がかかりました。

里親になることに対して、ご家族はどのような反応でしたか?

こどもを授かりたいという気持ちが一致していたので、夫は賛成してくれました。私の両親も、「すごくいいことだと思うよ」と背中を押してくれました。ただ、夫の両親はどういった家庭の子が来るのか不安に思われていたようで、「夫婦2人で生活していけばいいじゃないか」と反対されてしまって。最終的には夫が、半ば強引に進めてくれました。そんな義両親も今ではがらりと変わって、こどもたちが「おじいちゃん、おばあちゃん」と言って遊びに行くと、ほかのお孫さんと比べることなく可愛がってくれています。

どのような里親活動を行っていますか?

私たちの子として人生を共にしたかったので、2人と特別養子縁組を結びました。元気に育って、1人目の子は今年で21歳、2人目の子は17歳になります。縁組を結んだ後は養育里親として、何人か短期でお子さんを預かりました。ただ、どんなに楽しく一緒に過ごしてもいつかは帰ってしまうので寂しく感じていました。そんな時に、長期預かりのお子さんがいるとお話をいただいたので、二つ返事で受託し育てています。

初めて里子さんを迎えた時のことを教えてください。

最初に迎えた子は、生後1か月にも満たず、病院で乳児院に行くのを待っている状態でした。この子の境遇や実の母親の気持ち、そして私たちの想いを抱え、初めて対面した時は「私たちのもとに来てくれてありがとう。待っていたよ」という気持ちでいっぱいでした。実の母親から里親に直接挨拶するケースは珍しいのですが、母親とそのご両親もそろって「この子をよろしくお願いします」と深々と頭を下げられたんです。「大切に育てます」と伝え預かり、溢れる涙を抑えきれなかったのを覚えています。

2人目以降の里子さんを迎えた時のことを教えてください。

2人目の子は、産まれる前からお話をいただいていました。ただ、「いざ産んでみるとお母さんが手放したくなくなるかもしれない」と言われていて。結果的に、お母さんがやむを得ない事情で泣く泣く里子に出すことにして、生後12日目に病院へ迎えに行きました。
一緒に生活を始めると、上の子にお兄ちゃんの自覚が芽生えたようで、4歳も空いていたのもあり、きちんと世話をしてくれたので助かりましたね。その後に迎えたこどもたちも、すでにお兄ちゃんとお姉ちゃんがいたし、おもちゃもたくさんあったので、すぐに私たちに馴染んでくれました。

大変だったことはありますか?また、どのようにしてそれを乗り越えましたか?

里親だからと、特別に苦労を感じたことはありません。経験することは、一般的な子育てと同じだと思います。
ただ、私たちの関係をこどもに伝える時に、どう受け取られるだろうかという不安はありました。告知は、児童相談所からのアドバイスで、5歳くらいのタイミングで行いました。2人のお母さんと赤ちゃんが登場する絵本を使って、「こっちが産んでくれたママ。こっちが育ててくれているママ。そしてこの子があなただよ」と説明すると、こどもの目からは涙が溢れていました。理解してくれたのだと思っています。
それでも自分がどうなるのか不安があったようで、上の子から「ママから離れたくないよ」と言われたんです。だから「大丈夫だよ。ママは絶対にどこにも行かないよ」としっかり伝えました。言葉でもスキンシップでも愛情をしっかり表現してきたので、気持ちは伝わっていると思います。

里親活動で、気付かされたことや学んだことはありますか?

こどもが本当のことを知ることで、明るい性格が変わるんじゃないか、家に引きこもるんじゃないかと心配していました。しかし2人ともまったくそんなことはなく、まっすぐ育ってくれています。そこで気付かされたのは、“こどもは私たち大人が思っている以上に強い”ということ。それ以来、里親の友人が告知することに不安を抱えていたら、「親子の信頼や愛情は絶対になくならないから大丈夫」と、自身の経験を伝え後押ししています。

どのような時に、やりがいや喜びを感じますか?

辛い経験を、家族として一緒に乗り越えられた時です。以前、上の子が手術で入退院を繰り返すことがあったのですが、付きっきりで支えることができました。もし施設で育っていたら、スタッフの方もお忙しいと思うので、ここまで寄り添えなかったと思います。また、夢を叶える手助けをしてあげるなど、こどもが楽しんでいることに対して、応援したり一緒に喜んだりできるのも幸せです。

周りの人との関わり方を教えてください。

私たちの関係のことは、身内や友人、学校の先生など、必要な範囲で伝えています。否定されたことは一度もなく、みんな応援してくれています。すると徐々に里親活動をもっと広めたいという気持ちになり、里親の友人と一緒に体験談を話すボランティアを始めました。こどもたちに、「養子について話を聞きに来る人がいるかもしれないけど、みんなに話してもいい?」と聞いたら、「全然構わないよ」と言ってくれて。その時に、周りに知られることに対して、特に嫌な感情を持っていないのだと知りました。

会長を務めている地区里親会の活動内容について教えてください。

里親の家庭は、孤立しないよう横の繋がりを築いておくことが大切になってきます。里親会は、交流の場として、そして何かあったら相談できる場として存在しています。定期的に、里親同士が近況報告や悩み事などを話せる場として『里親CAFÉ』を実施しています。また、レジャー施設へ遊びに行くなど、こども同士が仲よくなれるイベントも行っています。

里親に関心のある方へメッセージをお願いします。

もしも養子として迎えた子が大きな問題に直面したとしても、もう家族になっているので全員で力を合わせて、一緒に乗り越えることができると私は思っています。そういった経験を重ねていくことで、絆も深まっていくはずです。パパとママを必要としているお子さんは、まだまだたくさんいます。あなたを必要としているお子さんも、絶対にいます。縁があれば、お子さんは必ずあなたのもとに来てくれるので、その時はどうか前向きに受け入れてあげてください。

そのほかに伝えたいことがあればお願いします。

これからこどもたちが巣立っていくと思うと、子育て期間ってあっという間だなとつくづく感じます。こどもがきっかけで、学校や地域と関わることができ、“地域のなかで暮らしている”という実感をもてました。もし夫と2人だけだったらそうはならなかったと思うし、出会えなかったであろう家族や友達もたくさんいたと思います。夫婦2人だけの人生を否定するつもりはありませんが、私たちの場合、里親になった今の人生のほうが豊かだと感じています。こどもが欲しいけど里親のことを知らないという人たちがいないように、里親活動の啓発をしていきたいと思います。