里親活動を始めるきっかけを教えてください。
もともと、こどもはたくさん欲しいと思っていました。結婚してすぐに恵まれたため、2人目以降も自然に授かると信じていました。ところが思うようにはいかず、2年間ほど産婦人科に通って不妊治療を受けることに。その間、費やしたのは時間やお金だけではありません。“こんなに頑張っているのにどうして報われないのだろう”と、心までもが削られていきました。
そんなある日、手術で病院に一泊した夜に、ふと「里親」という言葉が浮かびました。“血の繋がりにこだわる必要はない。里親を必要としている子がいるのなら、力になれるかもしれない”。そう思った瞬間に嬉しさがこみ上げ、すぐにインターネットで里親について調べました。そこで見つけたカメリア会(福岡県里親会大牟田児童相談所地区里親会)にコンタクトをとり、2020年に里親活動を始めました。
どのような里親活動を行っていますか?
これまでに一時保護で2人を受け入れ、現在は2人目となる長期のお子さんを預かっています。一方で、久留米を拠点とする子育て機関「じじっか」の大牟田支部代表も務めています。ここでは週に一度、ひとり親世帯を含む、さまざまな背景の家族が集まって大家族のように食事を楽しむほか、誕生日会や七夕会などさまざまなイベントを行っています。
さらに、前述のカメリア会が主催する里親サロンにも参加しています。ここでもボウリング大会やお花見といったイベントを通じて、里親や里子さん同士が交流を深めています。
里親になることに対して、ご家族はどのような反応でしたか?
娘は小さなこどもが好きなので喜んでくれ、夫も娘の意思を尊重してくれました。しかし、義理の両親は血縁を大事にしていたため、最初は受け入れてもらえませんでした。養子縁組は難しくても、せめて養育里親としてこどもたちと一緒に育ち合いたい。その思いを胸に、義理の両親に気持ちを伝え続けました。
また、娘の友だちを家に招いてお泊まり会を開き、小さなこどもと触れ合う機会を設けました。すると娘を中心に自然と交流が生まれ、最終的には、児童相談所などの関係者を迎えた家庭訪問で、「夫婦に任せます。私たちは見守ります」と言ってくれるまでになりました。
義理のご両親は、どのように里子さんと接していますか?
私は保育士として働くかたわら、里親サークルやPTAなどの活動にも参加しているため、外出することが少なくありません。そんな中、お義母さんが自ら進んで里子さんの食事を作ってくれるようになりました。しかも、こども向けの小さなお皿にまで盛り付けてくれます。おかげで安心して活動できているので、感謝の気持ちでいっぱいです。
里子さんを預かっている時に心がけていることはありますか?
我が子と同じだと思って接するようにしています。悪いことははっきりと「だめ」と伝え、甘えさせられる時にはきちんと甘えさせます。分け隔てなく育てられていることは、里子さんにもきっと伝わっているはずです。
また、自立を促すために、なるべく何事も自分でやらせるようにしています。自分でできることを少しでも増やしてあげたいという気持ちは、一時保護の時も長期預かりの時も変わりません。
どのようなことに、意義や喜びを感じますか?
実子であるかどうかに関わらず、社会の宝であるこどもを世に送り出すことは、大人としての最終的な目標であり、務めだと考えています。将来、自立した子が自分の足で生活し、自分の考えを持って生きていく。その土台作りに関わることができるのは、とても意義のあることです。
大変だったことはありますか?また、どのようにしてそれを乗り越えましたか?
ある里子さんを迎えた時、娘はまだ小学1年生になったばかりで、男の里子さんとは3歳しか離れていませんでした。弟のように可愛がりたいという気持ちがある一方で、里子さんに私を取られてしまったという思いもあったようで、毎日のように里子さんとけんかをしていました。考えてみれば、ずっと一人っ子だったので無理もないことですよね。
そんな時は、里子さんを一時的にほかの里親や施設に預ける、レスパイト・ケアという制度に救われました。月に一度、娘と一緒にお出かけするなど、2人だけの時間を持つようにしたんです。するとそれがよかったようで、積極的に里子さんの面倒を見てくれるようになりました。その里子さんとは今も繋がっていて、今度うちに泊まりに来る予定です。娘にとっては、まるでいとこのような存在ですね。
今後、どのような里親活動をしていきたいですか?
以前と違って地域との関わりが希薄になり、近所付き合いを面倒に感じてしまう家庭も多いようです。その結果、核家族は孤立した状態で子育てをすることになってしまいます。孤独な子育てというのは、とてもつらいものです。だからこそ、地域全体でこどもを見守る環境を作っていきたいと考えています。こどもは、そのような環境で生活することで、心のなかの愛情タンクが満たされ、大人が特別なことをしてあげなくても自然に育っていくと信じています。
里親に関心のある方へメッセージをお願いします。
私は、血縁よりもご縁が大切だと思っています。もし里子さんとのご縁があれば、全力で寄り添ってあげてください。笑いや涙にあふれる日々を通して、きっと何かしらの気づきと温かな喜びを得られるはずです。
みなさんのなかには、里子さんに「何かしてあげたい」という強い気持ちを持っている方もいるかもしれません。しかし実際には、逆に私たちが学ばせてもらうことのほうが多いものです。私自身も以前は怒りっぽい性格でしたが、ずいぶん穏やかに見守れるようになりました。まさに、こどもと一緒に“育ち合う”日々です。
そのほかに伝えたいことがあればお願いします。
子育てをするうえで、自分が完璧である必要はありません。里親サロンのように、同じ立場の人に相談できるネットワークを作っておくと困った時も安心です。どうしてもつらくなった時は、児童相談所に相談して一時的に里子さんから距離を置くのも一つの選択です。悩みすぎず、自分を責めすぎず、1人ですべて抱え込まないことが大切です。



